2014年02月06日

世界屈指のXTC研究家、澁谷さんに直撃インタビュー:“忘れられがちだが、僕たちはXTCに生涯かかっても返せないほどの恩義があると思う、などと言うと過言かもしれないし、ネットだと叩かれるかもしれない(笑)!”

日本、いや、世界屈指のXTC研究家/XTC音源コレクターの澁谷さん(@xtcfc)に直撃☆インタビュー!


ツイッターフレンドの澁谷さんは“一日300回ぐらいXTCの事を考えているので、耐えられなくなってtwitterのアカウントを作りました”というXTCファンの鏡のような方です。XTCヲタクの私としては、是非、いろいろお話を聞きたく遂にインタビューしてしまいましたっ!!!!昨年の10月にリリースされたNonsuchの話題を中心に語っていただきました。澁谷さんのXTCへの愛情溢れるお言葉のひとつひとつに感動で胸が一杯になりました....。

sibuya.JPG

究極ポップNonsuchが感動に震えるサラウンドサウンドと美し過ぎるニューミックスで見事に蘇った!APEからリリース(Blu-ray版は特典一杯)!
https://www.burningshed.com/store/ape/
0.JPG
まだ買っていない人!サラウンドサウンド部門グラミー賞候補の5.1サウンドの巨匠スティーブンウィルソンが手掛けたNonsuch。絶版になる前に是非アンディのレーベルサイトからご購入を!

“忘れられがちだが、XTCファンはXTCに生涯かかっても返せないほどの「恩義」があると思う、などと言うと過言かもしれないし、ネットだと叩かれたりするかもしれない(笑)!”

Miko: こんにちわ!澁谷さん!

澁谷さん: こんにちわ、Mikoさん。

Miko: 日本、いや、世界屈指のXTC研究家、XTC音源コレクターの澁谷さんにインタビュー出来るなんて、本当に光栄です。すっごい興奮しています(笑)!ありがとうございます!

澁谷さん: いえいえ、こちらこそ。Mikoさんのブログ、いつも「おおっ、この記事の翻訳!嬉しい!」と驚き、かつ喜びながら拝読しています。最新のMummerのインタビュー(注: まだ、未読の方、Terryチャンバースのインタビューの翻訳記事をぜひ読んでね!)もいいですよね。

Miko: へへへ…。照れます...。それでは早速、澁谷さんにお聞きしたいのは、昨年出たNonsuchの5.1版のことです。最初にこれが出るニュースを聞かれたときどう思われましたか?

澁谷さん: 僕が家で使用しているオーディオ・セットは、たいへん貧弱な代物です。CDプレイヤーだけはCASTAMのCD-RW700というプレイヤーで、赤白の端子でレコードでもビデオでも繋いでCD-Rに焼いてしまえる代表的な民生機...と言っても高価ではありません..。CD部分やカセットデッキ部分が壊れたシステムコンポをアンプ代わりに使用しており、スピーカーも本棚に収まるぐらいの小さなものを繋いでいて、しかも左のチャンネルが常に接触不良で音が低いという、ひどいセットです。レコードプレイヤーも安物です。この状態で、記憶している限りでは、既に15年近く音楽を再生しています。要するに、僕はオーディオマニアではないし、音質にもさほどこだわらないのです。

Miko: それは、意外や意外。渋谷さんほどのXTC研究家、音源コレクターであれば、それはものすごいオーディオ機材をもっていらっしゃるのかと思っていました!大変親しみを感じます(笑)!私もオーディオマニアワナビーではありますが、うちにあるのは非常に貧弱なシステムです。

澁谷さん: そういうわけで、「5.1サラウンド」というものについても、どういうものなのかいまひとつ把握しきれていません。なので最初は、Nonsuchが何やら得体の知れない、僕のシステムでは再生できないようなフォーマットでリイシューされるのか?と戸惑いましたが、アナウンスをよく読んだら通常のCDプレイヤーでも再生できると分かったので安心しました。ブルーレイプレイヤーは持っていなかったので、やっぱり安物をオークションで落札しました。

Miko: ふふふ、オークションってありがたいですよね!

澁谷さん: 僕が一番気になっていたのは、こうした"Deluxe Edition"に付き物の、ボーナス・トラックの類いでした。これまで海賊盤でしか聴けなかった"Car Out of Control"、"Wrapped In Grey"、"War Dance"のデモや、オフィシャル・リリースはされていたものの入手困難になってた"Rip Van Reuben"、"Bungalow"などのデモが改めて世に出るのは快挙ですし、"The Disappointed"の制作過程のスケッチを聴くことができるのも、今回の再発の重要なポイントです。

Miko: たまに、XTCファンでも「デモは聴き飽きた」なんていう意見もありますけど....。

澁谷さん: いやいや、まだ発表されずに眠ったままのテープがあるなら、あと何十時間分あったとしても全てを聴いてみたいですね。

Miko: 激同!!!ですよね!!オリジナルのNonsuchがリリースされた当時の思い出は?

澁谷さん: 日本盤CDを買う前にイギリス盤の2枚組LPを買って聴いたのが最初だと思います。

Miko: 当時の澁谷さんってどんな感じだったんですか?もし、差支えなければ.....。

澁谷さん: その頃は北海道の千歳という街に住んでいて、初めて就職した食料品店を「運転がヘタだから」と首になって落ち込んでいました。

Miko: それは!!!涙。

澁谷さん: 映画が好きなのでビデオレンタル屋でバイトしようと面接を受けたら、「研修期間中だけだから」と、同じ会社の系列のカラオケボックスで働かされる羽目になって、暴君のようなワンマン社長の罵声を毎日浴びながら生活していました。そういう中で聴いたXTCの3年振りのアルバムは、何にも代え難い救いのように思えて、しばらくは家に帰ったら毎日、貪るように聴いていました。



“XTCは長年愛されるに値する、家具や調度品のようなレコードを作るための努力を惜しまない”

Miko: 特に印象に残っている曲は?

澁谷さん: 最初は"Crocodile"や"Omnibus"のような派手な曲がお気に入りで、インナースリーヴがヨレヨレになるまで歌詞を目で追いつつ、アホみたいに熱唱しながら聴いていたのです。これは最初に新譜として聴いたMummer以降の全作品に共通していまして...、これまでの自分のリスナーとしての歴史を振り返ると、新譜が出るたびに僕をそこまで夢中にさせるのはXTCを置いて他に居ません。

Miko: (目頭が熱くなるのを抑え...)ははー。胸にジ〜ンと来ました。ところで、このアルバムでAndyがこだわったのは何なのでしょう?

澁谷さん: 出来る限り長い年月に亘ってファンを楽しませることのできる、美しいXTCのレコードを作ること、だと思います。古くなりそうな要素や、無難な所で手を打つ、という判断を可能な限り避けて、長年愛されるに値する、家具や調度品のようなレコードを作るための努力を惜しんでいません。そしてNonsuchは現にその役目を、今も果していると思います。少なくとも僕にとっては。

Miko: (再び、ジーーーーンと来て感涙で声が震えるのを抑え...)"長年愛されるに値する、家具や調度品のようなレコードを作るための努力”......。うう.....。(声が詰まる...)納得です。納得です。それが、Andyのハートですよね。というか、XTCのハートですよね。(ため息)それでは、このアルバムでAndyが最も苦労したであろう箇所、演奏、曲、アレンジは何だと思われますか?

澁谷さん: どの曲も、AndyやColinは曲作りの入り口で得たインスピレーションを逃さずに、実に適切な方法で出口まで発展させていると思います。

Miko: ....という意味は?

澁谷さん: つまり、そこそこ良い曲が書けたとしても、それが何を歌っている曲なのか、どのようなサウンドを持つべきなのかを理解し、実現するのは生半可なことではありません。

Miko: はい、なるほど....。

澁谷さん: 世の中のほとんどのポップ・ミュージックは、生半可な仕上がりに甘んじている...と、言うか、うーん....または怠慢によって曲が成熟しないまま完成品として提出されてしまっている...と思わされることが多く閉口してしまいますが、そういう曲、つまり、意図的に品質を低くした音楽っていうのかな?...そういう曲に限って商業的に成功してしまう例が多いのも事実で.....。

Miko: はいはい、そうですよね。

澁谷さん: そう、とりわけAndyのような優れたソングライター、パフォーマーには不公平に感じる点ではないかと思います。そういう意味では、このアルバムでAndyが最も苦労したのは、まさに、演奏、曲、アレンジの「すべて」と言うしかない気がします。XTCとしては新たな挑戦のように思えた"The Smartest Monkeys"のような曲....。

Miko: あれってプログレですよね(笑)?

澁谷さん: Colin本人も「ソング・ストーリーズ」で認めていますね。20年振りに再結成した大物プログレバンドのシングルみたいに聴こえる(笑).....、まあ、この曲のアレンジ、演奏にしても、実は彼らの中にああいったタイプの音楽の引き出しがもともとあって、案外軽く楽しみながら取り組んだのではないか、と想像できますが、独特な創意や情熱の産物であることに変わりはありません。極めて職人的でありつつも、常に新鮮な発見の歓びを忘れていないのがXTCの大きな魅力だと思います。

“Nonsuchを初めて聴いた時は、ラストの"Books Are Burning"のエンディングを聴きながら「えっ、もう終わり?」”

Miko: NonsuchのプロデューサーはElton Johnとかで有名な“古いタイプ”のプロデューサーであるGus Dudgeonですが、好きなタイプのプロデューサーですか?彼の良い所と悪い所は?

澁谷さん: 正直言って、プロデューサーとしてのGus Dudgeonという人には興味がないのです。そもそも「プロデューサー」というものに興味がないのかもしれないけど...。Dudgeonにしても、David Bowieの"Space Oddity"をプロデュースした、というのは賞賛に値すると思いますが、あれほど説得力のある楽曲と歌声を手にしていたあの時点でのBowieがプロデューサーを必要としていたのかは疑問です。一方、XTCというバンドには常に、まあ、それが誰であれ、商業的なバランスを保つために、レコード制作に立ち会う人....ご意見番みたいな?....人は必要だったのかもしれません。

Miko: Andyとは折り合いが悪く大喧嘩したあと、クビにしましたよね。(注: ここらへんのエピソードはブログ記事でDaveとColinのNonsuchのライナーノーツを翻訳した記事を読んでね)

澁谷さん: うーん。一番しっくりくるのはエンジニアとして確かな腕を持っていて、音楽的なアイディアも提供できる人物だと思いますが、Dudgeonがどの程度貢献したのかは僕には判断出来かねます。「もしも」の話になってしまい不毛ではありますが、Nonsuchの制作からSteve LillywhiteとHugh Padgamが降りてしまったのは、まあ、これは後で知ったことですが、やっぱりちょっと惜しいですね。

Miko: ですよね、Andyとも息ピッタリだったあのゴールデンコンビであともう一枚XTCのアルバム作って欲しかったです。Nonsuchは、曲が何しろぎっしりたくさん詰まった宝箱のようなアルバムですが、澁谷さんのご意見では多過ぎだと思われますか?

澁谷さん: 初めて聴いた時は、ラストの"Books Are Burning"のエンディングを聴きながら「えっ、もう終わり?」と、残念な気がしました。前作のOranges And Lemonsは僕にとって全面的に肯定できるアルバムとは言えなかったので..."The Good Things"や"Living In a Haunted Heart"、"This Is the End"などボツになった曲の方が好きなんです。ある種の飢餓感がそのような気分にさせたのだと思います。

Miko: 私もXTCのニューアルバムだったら20曲入ってようが、200曲入ってようが、私的には、ぜんぜ〜ん問題ないです(笑)!!!ところで、いつもアルバムの曲順がいかに大切さを訴え、うるさいほどこだわり、ファンにも曲順を勝手に変えて聴いてくれるなよ、なんて言っているAndyですが、澁谷さんから見てこのNonsuchの曲順は良いと思われますか?

澁谷さん: 悪くないと思います。慣れ親しんだ今となっては、というカッコ付きですけど。"The Ugly Underneath"や"That Wave"からスタートするNonsuchは想像しにくいですよね。

Miko: 私はもう完璧だと思うんです。「さあ、おまえら、行くぞ!」って感じで"Peter Pumpkinhead"がDaveがギターにプラグを差し込む音で始まる。ものすごく男臭いロックンロールナンバーで。この曲で颯爽とアルバムの幕が開くと、もう胸がわくわくしてテンションがあがるんです。その男臭〜いかっこ良いロックナンバーが終わると、今度は対照的に優しく繊細なColinのナンバーの”My Bird Performs”に移行する。ホッと一息つくわけです。Andyの曲でテンションがあがり、Colinの曲でホッとするというパターンが好きです。Andyは「プッシュ・プル」(緊張と緩和のバランス)を曲に多用していますが、Nonsuchのアルバム全体を通して貫いています。最後から2曲目が"Bungalow"というこれまたホッとする繊細なColinのナンバー。それが終わると、XTCの名曲中の名曲である"Books Are Burning"というAndy自身非常に誇りにしているというラストのナンバーになります。焚書に対する辛らつな批判を込めた感動的な歌詞に胸を震わせるわけです。そして、遂にエンディングですが、あのDaveとAndyの華麗なダブルギターソロで堂々と幕が閉じるわけです。この曲は、最初は静かに淡々とした歌い方が、さびのところで”ん、んんん-----!!"と唸るところでAndyの怒りが爆発するところから最後のギターソロが終わるまで涙無しでは聴けないのです。さて、私のどうてもエエ解説は置いておいて(笑)、澁谷さん、今回のリリースでは当然、サラウンド化したことと、クロスフェードが今回なくなったのが新しい所ですが、クロスフェードについては?文句言っているファンもいるようですが。



澁谷さん: 曲がバラされたのは、正直言って嬉しかったです。Nonsuchのオリジナルのマスタリングで施されたクロスフェードのうち、目立つものは"The Disappointed"から"Holly Up on Poppy"、"That Wave"から"Then She Appeared"へと連なる流れですが、細かく言えば"My Bird Performs"と"Dear Madam Barnum"、"Omnibus"と"That Wave"もほんの少しだけクロスしています。

Miko: 少しですね。

澁谷さん: 癒着、ジョイント、と言ったほうが正しいかもしれません。"Ladybird"と"Me and the Wind"とか、"All You Pretty Girls"と"Shake You Donkey Up"なんかと同じ類いです。

Miko: なるほど。

澁谷さん: このうち、"Holly Up on Poppy"と"That Wave"、"Then She Appeared"の3曲は初めて独立した形で聴くことができました(それ以外はシングルやプロモ盤に独立して収録された)。クロスフェードはBlack Sea以降のXTCの全アルバムに現れる手法で、僕はどれも好きですが、同じように、本来はクロスした状態で我々に提供されるべき楽曲が、何らかの事情で...ええと...オムニバスやシングルに単独で収録されたり、今回のNonsuchのケースのようにリマスターのアイディアとして分離される、なども事情で...独立した状態を聴くのも大好きです。それはNonsuchに限らず、例えば"Coat of Many Cupboards"に収録された"No Language In Our Lungs"や、日本でリリースされたオムニバス"Trip to the World"に収録された"Yacht Dance"なども、僕には喜ばしい贈り物のように感じました。イントロやアウトロに夾雑物が無いことで、アルバムを聴くだけでは聴こえづらかった音がきちんと聴こえたり、フェイドアウト、またはカットされていた演奏部分をほんの少し聴くことが出来るのは、人によっては「重箱の隅を突つくようなマニアックな趣味だ」と思うかもしれませんが、その曲を愛していれば、特におかしな事でもないと思います。

“Nonsuchは地味なモノトーンだから聴くのはやめた、などという人は、そもそもXTCなんか存在しなくても平気な人なのでは?”

Miko: まったく同感。Oranges And Lemonsで陽気にアメリカナイズされたXTCが突如これ以上英国臭プンプンのアルバムなどないと思えるくらい英国ポップに回帰したのが本作品Nonsuchです。そこらへんのXTCの変わる時は猛烈に変わるぜ!おまえらついてこられないべ!みたいなファンをつっぱねる潔さが好きなのですが、そういう姿勢をどう思われますか?Oranges And Lemonsは売れたアルバムだったので、あの路線をせめてあともう一枚は出せば収益もあったのに、商売下手ですよね?

澁谷さん: XTCはどのアルバムもそれぞれのサウンドの特徴を持っていますが、一部の粘り強いファンを長年つなぎ止めているのは、AndyやColinが曲を書き、歌い、他でもないXTCが演奏しているという事実に尽きると思います。

Miko: まったく、その通り。また、じ〜んときました。

澁谷さん: Oranges And Lemonsの明朗で色彩豊かな音を聴いて気に入ったけどNonsuchは地味なモノトーンだから聴くのはやめた、などという人は、そもそもXTCなんか存在しなくても平気な人なんですよ。

Miko: なるほど。

澁谷さん: XTCの姿勢、という点については、あながち「突っぱねている」という意識は稀薄なんじゃないかと想像しています。音楽家として「新しい」ものを作りたいという欲求と、「新しいものを提供できなければ音楽家としては死んだも同然」的な強迫観念と、あとは単純に、XTCの新譜を楽しみにしているファンを喜ばせたいという無邪気なサービス精神からくる作品ごとの変化というものがあったのじゃないかと思います。

Miko: "強迫観念”と”ファンを喜ばせたいという無邪気なサービス精神”ですね。なるほど。

澁谷さん: とまれ、XTCが凡百のポップ・アイコンや絵に描いたようなダサいロックスターみたいに、似たようなヒット曲を製造するだけのシューシュポス的な愚行に陥らなかったのは我々ファンにとっては歓迎すべき事だったと思います。極論かもしれませんが、商売がうまいバンドほど衰えが早く、無様な終わり方をするものです。XTCは爆発的にはヒットしませんでしたが、無用で退屈なレコードは1枚も作らなかったし、どの作品も大切に聴かれ続けているのは立派な事です。



Miko: XTCは本当に立派ですね。ところで、このアルバムでのAndyの最高傑作品は?つまり、Andyの曲、演奏、ヴォーカル等でベストなのは?

澁谷さん: 曲は"Humble Daisy"と"Wrapped In Grey"が常に僕の同率トップです。あり得ないほど美しいと思う。演奏はやはり、"Books Are Burning"のエンディングですかねえ。"Peter Pumpkinhead"のハープもいいですね。ヴォーカルは全体的に好きですが、"That Wave"と"Wrapped In Grey"の出来が甲乙付け難いと思います。初めて聴いた時はよく分からなかったけど、自分がその頃よりも曲を書いたり歌ったりするようになって、よりこれらの曲や演奏の凄さが沁みてきましたね。

Miko: このアルバムでのDave Gregoryの最高傑作品は?ギターソロ、ピアノ、アレンジ等で。

澁谷さん: Daveがアレンジした"Rook"はアルバムのハイライトだと思います。ギターソロは、これは誰もが思うことでしょうが、もう"That Wave"に尽きますね。"Rook"も"That Wave"も、非常に挑戦的な意欲作ですが、どちらも過剰に力が入りすぎず、なおかつ印象深いサイケな味わいがあります。

Miko: このアルバムでのColinの最高傑作品は?曲、演奏、ヴォーカル等で。

澁谷さん: これは文句なしに"Bungalow"だと思います。あの3分足らずの曲にColinの稀有な才能が凝縮されているというのは過度な思い込みでしょうか。Colinという人は、"Making Plans for Nigel"、 "The Meeting Place"、 "Sacrificial Bonfire"、 "The Affiliated"などに顕著です。複雑な感情を語る優れた短編小説のような世界を、あの簡潔なポップスのフォーマットに結晶化させる才能がありました。言葉がAndyよりも世界に開かれていて、色んな風に解釈できて、聴き手がその曲を自分のものにできるような親密さがあったのです。

Miko: うーん、なるほど。そう言われると本当にそうですね。そういわれて納得します。Andyはいつも「メロディーに関してはColinの方が優れたメロディーを作るのは確かだが、あいつの歌詞はだめだ。直してあげようと何回したが、拒否された」と言っています。歌詞においては、Andyは本国イギリス、アメリカ等の音楽ファンの間では天才詩人のように尊敬されています。でも、澁谷さんの今のご意見を聞いて、確かに歌詞がAndyより曖昧だからこそ、聴く者が解釈出来る自由度がAndyより大きいからこそ、Colinの曲は“自分のものにできるような親密さがある”というのは本当ですね。目から鱗が落ちました。感動です。(鼻がまた、ツーンとしてきた)それでは、このアルバムでのDave Mattacksの最高傑作品は?彼のゲストドラマーとしての演奏はいかがでしょう?

澁谷さん: どれも好きですが、特に"The Smartest Monkeys"のドラムは表情豊かで大好きです。

Miko: Daveのドラムは他のドラマーたちとはどのように違うのでしょうか?

澁谷さん: 自分の音がどのように録られ、聴こえているか、よく自覚していると思います。それぞれの曲の個性に寄り添い、どのような音が適切か熟考できるタイプです。尤も、これは優れたドラマーの必須条件ですし、そのようなドラマーでなければXTCのセッションには参加できないと思いますが。一般的な「優れたドラマー」と決定的に違う、まあ、そして歓迎すべきDave Mattacksの特色を挙げるなら、「XTCが大好き」という事かもしれません。

Miko: そうですね。すでにXTCマニアだった彼がNonsuchのアルバムのドラムをしないか?という話が来たとき、信じられなかった!って大喜びしたのですよね。XTCはミュージシャンズミュージシャンですから。ところで、ずばり、澁谷さんにとってこのアルバムの最大の魅力を一言で言うと?

澁谷さん: Andy、Colin、Daveの3人が全曲で共に演奏している所。

Miko: はい。その通りですね。それでは、逆にこのアルバムの「惜しいな」というところは?

澁谷さん: 強いて言えば、ピアノがアコースティックではない所ですかねえ。

Miko: ...と、おっしゃるのは?

澁谷さん: この事について言及している批評などを見たことがないので、多くの人には重要な問題ではないのかもしれませんが、もしもチッピング・ノートンに本物の木で出来たスタインウェイかベーゼンドルファーがあれば、Nonsuchの味わいはより奥深いものになったことでしょう。

Miko: それは、私も気がつきませんでした。

澁谷さん: ちなみにThe Big Expressも、大半のドラムが打ち込みだったせいで、曲の出来は良いのに他のアルバムよりも古くささを感じる「隙」を作ってしまったように感じます。僕はいまだに、"This World Over"のドラムをミュージシャンが叩いているテープが発見された夢を見ますよ(笑)。

Miko: 澁谷さんがおすすめするNonsuchの聴き方は?たとえば、ヘッドホン、野外、酒を飲みながら(笑)とか。

澁谷さん: 仕事をしながら聴くと能率が上がると思います。僕は自営業なので、自分の店の小さな厨房で独りきりでカレーを仕込む時に聴きます。カレーが完成する頃、感動的に"Books Are Burning"が流れているという(笑)。

“XTCの歌詞は、必要以上にマッチョだったり正義漢ぶったり華美だったりせず、本物のメロディーにマッチする慎ましいメッセージや物語を与えてくれる水準の高さが魅力”


Miko: 私はヘッドホンが最も良いです。今回のリマスターのおかげで今まで聴こえなかった音が聴こえてきたのはものすごい衝撃でした。だから、今では以前よりもっと注意深く聴くようになりました。もう、愛おしいって感じで、サウンドの隅々まで聞き逃したくないって感じです。ところで、Andyの書く歌詞に心底惚れている私個人としては、日本のファンのみなさんには、このアルバムのAndyの歌詞にもっとハマって欲しいのですが、澁谷さん的にはXTCの音楽の魅力的要素の中における歌詞の重要性とか位置づけはどうなのでしょうか?

澁谷さん: XTC、つまりAndyとColinの歌詞というのは、いわゆる「ロック」的な価値観とは真逆の立場にあるのが、僕がXTCを好きでいられる最大の理由です。

Miko: ….とおっしゃるのは...?

澁谷さん: つまり、必要以上にマッチョだったり正義漢ぶったり華美だったりせず、本物のメロディーにマッチする慎ましいメッセージや物語を与えてくれる水準の高さが魅力です。

Miko: あー、確かにそうですね。はい。

澁谷さん: 考えてみれば、XTCがその歌詞において最も「ロック」に近づいたのは"Cross Wires"や"Traffic Light Rock"のような、当たり障りがなく、罪のない遊びのような曲だったと思います。でも、そういう無邪気な歌詞の時代は長くは続かず、Colinが"Nigel"や"Ten Feet Tall"のような曲で意識的に道を切り拓き、Andyも"No Language In Our Lungs"や"Towers of London"で、より言葉とメロディーが奇跡的にマッチした形で続いたのではないでしょうか。

Miko: そうですね、私にとってAndyの歌詞はXTCのサウンドと同じくらい大事です。Andyの歌詞がなかったら、ここまでXTC狂にはなっていなかったのは確かです。ですので、日本でリリースされるXTCのアルバムの対訳が誤訳だらけな状況に非常に憤慨するわけです。その曲の核となる大切なメッセージが無視され歪曲されとんでもない誤訳になっている!多くの誤訳は単語の意味や文法の意味を間違えた単なる誤訳のケースです。本当にプロの責任感があり、英語のエクスパートの翻訳者であれば、例えば”Holly Up On Poppy”というタイトルをみて「ん?意味不明だ」と疑問に思って欲しいし、作詞をした本人に確認して欲しい。Andyは自分に連絡してくれれば助けるとか言ってくれているわけで、レコード会社に頼めば直接彼に歌詞の意味や原詩の正確性を確認出来るんです。実際、Apple Venus Iを訳した方はその後、Andy本人に連絡して誤訳を直したものを再発行しているわけです。Andyが、Colinが魂を込めた歌のメッセージを正しくファンに伝えて欲しい、というのが私の悲願です。

澁谷さん: そうですね、日本ではMikoさんが常々言われているそういう誤訳がまかり通っていて、そのうえ、僕もその一人ですが、英語力に乏しいリスナーはそのような誤訳を鵜呑みにする傾向がありますから、充分に理解し味わっているとは言えないかもしれません。

Miko: ところで、澁谷さんは、Nonsuchが最初に出た当時はどのような音楽を聞かれていらっしゃいましたか?

澁谷さん: 1992年頃のXTC以外のアイドルは、Robert Wyatt、Dagmar Krause、Lou Reedなどです。日本だとムーンライダーズ、あがた森魚、工藤冬里あたりでしょうか。

Miko: Andyはこのアルバムではほとんどの曲をピアノを2本指を駆使して作曲したと言っていますが、そのためにヒネクレ度が影をひそめたようですが、澁谷さんはNonsuchのストレートなポップは過去のヒネクレ全開の作品と比べて魅力が半減したと思われますか?

澁谷さん: 全く思いません。XTCの音楽には「ひねくれポップ」という形容がやけにつきまといますが、もしや日本だけかな?、僕個人の感覚ではそれほどひねくれているとも思っていません。程度の問題かもしれませんが、同じロックやポップのフィールドを見渡せば、Frank ZappaやMayo ThompsonやKing Crimsonなどのほうが、XTCの何倍もひねくれているのは歴然としているのに...と不思議に思うほどです。バカラックなんてほとんど変態ですよ。

XTC1989i.jpg

Miko: そうですか。私はそこらへんの音楽はあまり、というか、まったく知りませんもので(笑)。XTC以外、過去のバンドはあまり知りません。

澁谷さん: XTCが登場したポスト・パンク/ニュー・ウェーヴ期のイギリスだけで比較しても、Wireが"I Am the Fly"のような奇怪な曲を歌っている頃、XTCは子どもでも歌えそうな"This Is Pop?"を歌っていましたし。XTCの「ひねくれ」が最高潮に達した瞬間は"Me and the Wind"だと思いますが、同じように微妙な不協和音や構成を持っている"Humble Daisy"や"Knights In Shining Karma"の説得力は、より鋭い直感と長年の経験からくる技量のたまもので、"Me and the Wind"ほど奇矯な印象は受けません。

Miko: うーん。なるほどね。

澁谷さん: それどころか古い工芸品のような美しい哀愁すら滲ませているのには驚かされます。XTCにとって大切なのは「創意」であって、「奇抜さ」ではありませんでした。そのような態度は、"Towers of London"、"Season Cycle"、"Find the Fox"、"Smalltown"、"Pink Thing"のような、Nonsuch以前の多くの曲に明確に顕れています。

“「Nonsuchは微妙」なんていう書き込みを見ると、「なんて恩知らずなんだ」と思ってしまう。XTCの世話になったんじゃないのか?!”

Miko: 最後の質問ですが、結構NonsuchはXTCファンから「苦手」とか、「嫌い」みたいな反応があります。特に、昔からのファンにそのような反応が多いような。それはおのおの好き嫌いがあるのは当然で、どのアルバムを好きだろうが嫌いだろうが自由ですし、決して咎めるつもりはありませんけど。ただ、腑に落ちないと言うか、私としてはこんなに美しい作品であるNonsuchが特に昔からのXTCファンに低評価なのは何故なのかわからないんです。何故だと思われます?

澁谷さん: そうですねえ、恐らく、多くの人は自分が最初にXTCを「発見」した時点での作品により思い入れを抱いているんじゃないでしょうか。White MusicやGo 2を全アルバムの中で一番聴くというファンは少なくないですし、出来る限り心を広く持って客観的に判断したとしても、楽曲の水準がSkylarkingやApple
Venusよりも劣るDrums and Wiresを生涯の一枚と言って譲らない人も居ます。僕の場合は聴き始めたのがEnglish SettlementやBlack Seaのあたりなので、どうしてもこの2枚だけは特別扱いしてしまいます。まあ、どの意見も正しいと思いますけどね。

Miko: まあ、わかる気がします。私はやはりBlack SeaでXTCにガッツ――ンと衝撃を受けたものですから、未だに最も愛着のあるアルバムですね。

cash xtc.jpg

澁谷さん: これは僕の推理ですが、このようにスタートラインにばらつきのある、アナログがデフォルトだった時代からXTCを聴き続けてきたファン....それは僕も含めてですが....そういうファンがようやく同じラインで「リアルタイムのXTCの新譜」を共有したのが、Oranges And LemonsやNonsuchなど、CDがデフォルトになったアルバムからなんじゃないかと僕は思っていまして....。言いたい事がうまく伝わるかどうか自信がありませんが、Oranges And Lemons以降の作品というのは、実に様々な意見と趣味を持つ、バラエティに富んだ「XTCファンたち」の批評に一斉に晒されることになったのではないか、と思うんです。

Miko: ああ、なるほど。一斉に晒された(笑)、というのは合っているでしょうね。

澁谷さん: そう、みんな、各々の「お気に入りのXTC」が基準になっているから、みんな言う事が違う。Nonsuchの頃になるとそれが極まって、余計に、NonsuchをXTCの基準にする人が現れにくくなっていたのではないでしょうか。あっちを立てればこっちが立たず、というか。Black SeaやEnglish Settlementが基準になっている僕から見ても、Nonsuchには「ドラマーがセッション・ミュージシャン」、つまり、バンドにとってドラマーは『心臓』のようなものですので....とか、「ピアノがアコースティックではない」、つまり"Blame the Weather"のピアノの美しさがあるために気になってしまう....とか、「初めて"Melt the Guns"や"Optimism's Flames"を聴いた時ほどは驚かない」、つまり、死ぬほどXTCを聴いてきたせいで....など、いくつかのかすかな不満が無いわけではありませんが。

Miko: わかります。

澁谷さん: でも、それを言うならBlack Seaでは"Humble Daisy"や"Bungalow"ほどに威力のある美しい「宝石」は聴けませんし、複雑な楽曲を4人のバンドサウンドで演り切ったEnglish Settlementに、"Wrapped In Grey"のような繊細かつ壮大な感動を求めることは出来ないのだから、やはり、NonsuchにはNonsuchでしか味わえないXTCの真剣な局面が詰まっているし、それを享受する歓びをみすみす見逃してしまうのは、たいへん勿体ないことだと思うのです。

Miko: ほーんと、勿体無いですよね。DaveはNonsuchがXTCの最高作品と言っていますしね。Andy自身もApple Venus I の次に誇りにしているアルバムで、曲、歌詞、演奏全てにおいて完成度の高い作品揃いで全体的に非常にアーチストとして成熟したアルバムだと言っています。

澁谷さん: Nonsuchを作る以前、XTCは全曲が素晴らしいBlack Seaを作り、世界の何処にも存在しなかったEnglish Settlementというものすごい音楽を作り、機智に富んだDukes and The Stratosphearのレコードを2枚作り、真にスタンダードと言える曲を多く含んだSkylarkingをも作りました。

Miko: はい。

澁谷さん: 僕にとって重要なのは、XTCがこれらのレコードを「作った」というだけでなく、僕にもたらしてくれたという事なんです。'82年に出会って以来、僕はこれらのレコードに、これは大袈裟ではなく、本当に支えられて生きてきました。何度も何度も聴いてきたのです。そして、僕のような人間が世界中に無数に存在するという事。

Miko: そうですね。私も現在、XTCの音楽に癒され、楽しまされ、励まされ、慰められています。Andy、Colin、Dave、そして、もちろん、ずっと以前のメンバー、Terry、Barry、このXTCのメンバーたちには心からありがとう、と言いたいです。では、今日は、お忙しいところありがとうございました。本当に澁谷さんってXTC命って感じでうれしかったです。

澁谷さん: こちらこそ、XTCについての会話が出来るだけでも最高に楽しいです。ありがとうございました。たぶん、三日三晩でも話し続けられると思います(笑)。最後に、これは、忘れられがちですが、XTCファンはXTCに生涯かかっても返せないほどの「恩義」があると思う、などと言うと過言かもしれませんが....。

Miko: そういう事を言うと、ネットで叩くファンは叩くでしょうね(笑)。

澁谷さん: うーん、しかし、個人的には、ネットなんかで「Nonsuchは微妙」なんていう書き込みを見ると、「なんて恩知らずなんだ」と思ってしまいますねー。お前、XTCの世話になったんじゃないのか?!って。もちろん、ネットが基準になってしまうのもおかしな話で、実際のところNonsuchを支持するファンは大勢居ると思いますけどね。

*******

澁谷さん、お忙しい所、ご協力いただきありがとうございました!
これからも、Twitterで仲良くしてください!
【関連する記事】
posted by Miko at 11:17| ニューヨーク ☁| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする